1979年2月6日、アントニオ猪木は大阪府立体育会館でミスターXと対戦したが、 様々なハプニングもあってミスターXがただの木偶の坊で評判倒れの凡戦に終わったものの、翌日の特番枠である「水曜スペシャル」で試合は放送され、視聴率は18.2%を記録するなど、まずまずの数字を残した。

そこでテレビ朝日側は「4月3日に異種格闘技戦を行ってほしい」と新日本プロレスに要請した。理由は当時テレビ朝日は「火曜スペシャル」と「水曜スペシャル」と二つ特番枠があったのだが、 「火曜スペシャル」で用意していた企画がボツとなったため、その穴埋めに異種格闘技戦を持ってきたのだ。
新日本も猪木vsモハメド・アリ戦でテレビ朝日に多額な借金をしていたのだが、猪木の異種格闘技戦をシリーズ化して特番枠で放送したことで、多額の放送料が入り、それを借金の返済にあてていたこともあって、今回も特番枠での放送ということもあって急な要請を断るわけにはいかなかったが、問題は対戦相手でミスターX戦のような失敗は許されなかっただけでなく、猪木と互角に渡り合えるのは対戦が噂されていたウイリー・ウイリアムスだけになってきていたことから、人材にも底が見えていた。
ミスターXでは時間もなかったこともあったが、実力も見定めないまま代役を任せた反省もあって新間寿氏が自ら対戦相手を探すことになり、ロスでジムを経営しているジョージ土門からマイク・”レフトフック”・デイトンを紹介された。デイトンはボディービルでの最高峰であるミスターアメリカでも何度も入賞し、また世界一の怪力自慢を決めるワールド・ストリンゲスト・マン・コンテストでも7位に入賞するなどプロレスラーなみのパワーを持っており、カンフーマスターの肩書もあってパンチやキックなどの基礎も持っていた。ただ首吊りを特技にしていることを新間氏が着目すると、使えると判断して猪木の相手に選んだ。
来日したデイトンは会見では分厚い電話帳を引き裂き、50円硬貨や100円硬貨を握りつぶして二つ折りにしたり、硬式テニスボールを握りつぶして食いちぎり、ゴングの編集長だった竹内宏介氏を片腕で持ち上げ、怪力パフォーマンスを展開したが、最も驚かせたのは太いロープを首に巻いて首吊りパフォーマンスで天井から吊るしたロープを首に巻き、そのまま10秒間吊り下がったことでマスコミに大きなインパクトを与え、翌日のお昼のワイドナショー番組にも出演してデモストレーションを再現したデイトンは「イノキをチョーク攻撃でKOする。もし、私を絞め落とすことが出来たら1万ドルを進呈する」と言い切るなど、猪木戦へ向けて大きくアピールする。




アピールも新間氏が試合を盛り上げるためのアイデアでもあったが、肝心なキックや格闘技の技術は未知数で、また猪木自身もシリーズ中だったこともあってデイトンを見たのが新間氏から手渡された写真と、2日に行われた調印式のみ、デイトンも未知数なら猪木も相手の予備知識のないまま、5日にはNWFヘビー級王座をかけてタイガー・ジェット・シンとの対戦も決まっていたこともあって、対戦相手のデータ不足とハードスケジュールの中で異種格闘技戦に臨むことになり、猪木は調整のためにで2大会を欠場した。
そして試合は4月3日、福岡スポーツセンターで行われることになったが、最初から決定していた日程ではなく、異種格闘技戦を行うために組まれた日程で、さすがの急な開催もあって観客も入りも今一つだった。試合ルールはルールは3分10ラウンド制で、寝技は10秒以内。デイトンが首が強いということでチョーク攻撃を認めるという特殊なルールな組まれ、レフェリーはデイトンを紹介した土門氏、サブレフェリーはカール・ゴッチの娘婿で後にUWFのレフェリーとなるミスター空中が裁くことになり、猪木は自身が保持するWWF世界マーシャルアーツ・ヘビー級王座をかけての選手権となった。
1Rに入る前からデイトンがミドルキックやパンチで猪木に襲い掛かり、試合開始のゴングがなってからスリーパーで捕らえるも、猪木は慌てて場外へ逃れるが、デイトンの奇襲はゴングに鳴ってからだったということもあって反則は取られなかった。リングに戻った猪木にデイトンはパンチのラッシュ、猪木は必死でガードするとタックルからグラウンドを狙うが、パワーのあるデイトンは倒れない。猪木はデイトンの蹴り足を掴むがデイトンは延髄斬りを浴びせ、食らった猪木は場外へ逃れる。
2Rになると猪木は延髄斬りを狙ったがデイトンは避ける。しかし横蹴りを狙ったデイトンの足を掴んだ猪木はアキレス腱固めを狙うが、デイトンはロープに逃れる。猪木はタックル狙いもデイトンはそのまま担いで猪木をトップロープから場外へ落とし、リングに戻るとデイトンはローキックで牽制してからパンチも猪木もカウンターでのナックルで応戦、デイトンの蹴り足を掴んでやっとグラウンドに持ち込みスリーパーで捕らえるが、デイトンはバックエルボーで逃れる。
第3Rは猪木が回転してから迫り、アリキックからグラウンドへ引きずり込むがデイトンはサイドポジションを奪って上から覆いかぶさる。寝技は10秒ルールということでエスケープとなると、デイトンは前蹴りを放つと掴んだ猪木はバックを奪ってバックドロップで投げるが、ダウンを奪うまでには至らない。猪木は首相撲で捕らえるがデイトンは逃れ、猪木がコーナーへ押し込むもブレイクの際に膝蹴りを浴びせる。
第4Rは、猪木はレッグシザースからグラウンドを仕掛け、スリーパーで捕らえるも腰投げで逃れたデイトンは上からパンチを浴びせる。これに怒った猪木は頭突きを浴びせると、頭突きに慣れていなかったデイトンはダウン、更に猪木が頭突きの連発を浴びせたためデイトンは流血する。デイトンはパンチの連打を浴びせて反撃するが、猪木は再び頭突きの連打を浴びせてデイトンは崩れる。


第5Rになると猪木がまた頭突きを浴びせてデイトンが崩れると、猪木はマウントを奪って頭突きを浴びせ、スタンディングになっても猪木は頭突きを浴びせてデイトンはダウンする。デイトンは立ち上がるが猪木はまた頭突きを浴びせてデイトンはダウン、デイトンは立ち上がったがマウントを奪った猪木は頭突きの連打を浴びせてデイトンはダウン、立ち上がったところで猪木のドロップキックは空を切ったものの。完全に怯んだデイトンに猪木は頭突きを浴びせ続け、ローキックやまた頭突きを浴びせる。
第6Rになるがデイトンはパンチの猛ラッシュをかけるが、猪木は頭突きを浴びせてデイトンはダウン、それでも立ち上がるデイトンに猪木はとどめとばかりにバックドロップを連発するとセコンドがタオルを投入して猪木が勝利も。デイトンはオレはまだ負けていないとばかりに猪木につかみかかったが後の祭りだった。

試合後に猪木は舟橋慶一アナから勝利者インタビューを受け、デイトンは体中に油を塗りたくって掴ませないようにしていたことを明かして怒りをあらわにするも、記者団との会見では急に決まった格闘技戦でスパーリングする時間もなく、また頭突きで勝ちたくなかったことを明かしていた。
猪木にしてみればその気になれば1Rでグラウンドに引きずり込んで勝ったかもしれないが、相手に対するデータが不足していたのと、首が強靭ならその首を攻めて勝ちたかった。それでかなりデイトンを倒すのに時間を要してしまったのだろうが、結果的にはミスターX戦より好勝負を見せることが出来た。
猪木はその後、ジュベール・ペールワン、ウイリアムス・ルスカとの再戦、キム・クロケイド、ウイリーと対戦したが、ウイリー戦を持って異種格闘技戦路線は一区切りをつけたが、クロケイド戦も異種格闘技戦路線末期における名勝負だった。
(参考資料 ベースボールマガジン社「日本プロレス事件史Vol.30」猪木vsデイトン戦は新日本プロレスワールドにて視聴できます)