女子プロレスオールスター戦➁北斗晶vs神取忍、血闘の果てに見たものは…


1993年4月2日、全日本女子プロレスが長与千種引退試合を行って以来6年ぶりに横浜アリーナに進出、JWP、LLPW、FMW女子を加えたオールスター戦を実現させた。

対戦カード
①長谷川咲恵 伊藤薫vsプラム麻里子 福岡晶
➁テリー・パワー 沼田三絵美vs土屋恵理子 前泊よしか
③KAORU ウルティモ・ディグリータvs下田美馬 渡辺智子
④みなみ鈴香 三田英津子vs風間ルミ 半田美希
⑤異種格闘技戦 バット吉永vsスーザン・ハワード
⑥デビル雅美vs長与千種
⑦井上京子 井上貴子vs尾崎魔弓 キューティー鈴木
⑧アジャ・コング ブル中野vsハーレー斎藤 イーグル沢井
⑨堀田祐美子vsダイナマイト関西
⑩北斗晶vs神取忍
⑪山田敏代 豊田真奈美vsコンバット豊田 工藤めぐみ

 JWPとLLPWは感情的なしこりが残っているとして対戦させるわけにはいかないとして、全女vs他団体の対抗戦という図式でカードが編成され、主演映画「リング!リング!リング!」のプロモーションとして一夜限りの復帰を果たす長与の試合を含めた11試合が組まれたが、18時開始とはいえ今思えば多すぎる試合数だった。入場セレモニーの後で試合が開始されるも、ほとんどの短くまとまらず15分越えの試合が多く、第5試合の異種格闘技戦の後でOGが集結する全女創立25周年記念メモリアル・セレモニーもあったため、夜の9時を越えて長時間興行になることは必至だった。

 そんな状況の中で北斗vs神取戦が行われたが時計の針は夜の11時に差し掛かろうとしていた。試合はリングアウトなしの完全決着ルールで行われ、開始から北斗が挑発から神取の顔面にグーパンチを浴びせると、まさかの一撃を受けた神取はダウン、北斗は試合中にも係わらずマイクを持って「オイ、神取!どうした起きろ!」と挑発、やっと起き上がる神取に北斗は張り手の連打を浴びせるも、神取は掌底の連打で応戦して脇固めで捕獲、逃れた北斗はたまらず場外へ逃れるが、この時に左肩を脱臼しており、レフェリーやセコンドが応急処置を施して北斗はリングに戻るも、神取は容赦なく左肩に蹴りを浴びせ、エルボーの連打を浴びせるも、北斗は顔面へのニーの連打で応戦、キャッチした神取はアンクルホールドを狙い、再び腕関節を狙うが北斗は慌ててロープの逃れて神取を場外へ蹴り出す。
北斗は場外の神取にダイブを狙ったが、阻止した神取はリングに戻って腕十字を狙いつつフロントスリーパーで捕獲、座り込む北斗にフロントキックの連打を浴びせてから再び左腕を狙うも、北斗も腕固めで応戦、神取を場外へ連れ出して本部席のテーブルに叩きつけ、テーブル貫通ツームストーンパイルドライバーを狙ったが、神取が逆に切り返してテーブルに北斗を突き刺す。使用されたテーブルはプロレスで使用する通常の机ではなく、横浜アリーナのテーブルを使用したため硬く、おまけに貫通しない、テーブルの破片が額に刺さってしまった北斗は流血するも、血が止まるどころ止まらず流れで始めてしまった。
 セコンドやレフェリーも北斗の流血の量が尋常でないため、北斗に「ギブアップか?!」と迫るが、北斗はリングに戻って試合は続行も、神取は容赦なく流血した北斗の額をナックル、キックを浴びせる。北斗もラリアットで反撃し場外戦に持ち込んでアリーナ奥まで雪崩れ込んで鉄柵に叩きつけたため神取も流血、だが北斗も血が流れ出ることで意識が朦朧となり、ほとんど無意識の状態になっていくが、北斗自身もこの後のことは全く憶えていないという。
 リングに戻ると北斗は神取の顔面にビックブーツを連発、しかしニールキック狙いはキャッチして倒されると、神取は北斗の顔面へのキック、場外めがけて前落としを敢行してから、場外の北斗にプランチャを発射、リングに戻った北斗にバックドロップを狙ったが、北斗はロープを蹴って体勢が崩れて両者ダウンも、先に起きた神取は北斗の左腕を腕固めでチキンウイングフェースロックで捕獲、北斗は慌ててロープに逃れると、すぐさまビンタからパイルドライバーで突き刺す。
 北斗はニールキックを浴びせるが、もう一発は血で視界が見えないためか空振りに終わると、神取は逆片エビで捕らえDDTで突き刺してカバーも北斗はカウント2でキックアウトする。
 神取はすぐさま三角絞めで捕獲も、北斗が逆片エビで切り返せば、神取も逆片エビで切り返し、ロープに逃れた北斗にナックルも、北斗は張り手のラッシュで返してからブレーンバスター、ボディースラムからダイビングボディープレスを投下も、もう一発は神取が剣山で迎撃するとパワーボムで叩きつけ、ミサイルキックを発射も、避けた北斗はジャーマンスープレックス・ホールドを決める。
 北斗はコーナーへ昇るが、強引に捕らえた神取はスリーパーで捕らえたまま旋回、そのまま一気に絞めあげるも、北斗は後頭部頭突きで脱出、神取は再びスリーパーで捕らえ、北斗を追い詰めるが、北斗はロープに逃れて窮地を脱する。
 神取はパワーボムを狙うが、北斗はウラカンラナで切り返し、逆にパワーボムを決めると、ニールキックで場外へ出してからスワンダイブでトペコンヒーロ、コーナーからミサイルキックと命中させる。
 リングに戻った北斗は「私は絶対に負けない!」と叫ぶと、ノーザンライトボムを予告するが、神取は腕十字で切り返し、北斗は慌ててロープに逃れる。神取はタイガードライバーを決めるが、北斗はカウント2でキックアウト、神取は後頭部ラリアットからランニングでのビンタ、しかしもう一発を狙ったところで切り返した北斗はバックドロップホールドを決め、神取はカウント2も後頭部に一撃を食らったところで、北斗は切り札のノーザンライトボムを決めるが、カウント2でキックアウトされてしまう。
 北斗はもう1度ノーザンライトボムを狙ったが、神取が掟破りのノーザンライトボムを敢行、切り札を失った北斗が神取の顔面にグーパンチを浴びせれば、神取も殴り返し、最後は互いのパンチがクロスカウンターとなると、両者ダウンとなるが、先に起きた北斗が神取をカバーして3カウントを奪い、北斗が勝利となった。

 試合を終えると先に引き上げる神取に対して北斗は大流血で意識が朦朧とする中で「おまえにはプロレスを愛する心がない。柔道かぶれのお前に負けてたまるか」と言い放ってバックステージへ下がり、バックステージインタビューでも「最強じゃないよ・・・いったい何が起こったのか、勝ったのか負けたのかわからないが・・・あの柔道かぶれにだけは絶対に負けない、絶対に負けない」と発言したが、北斗にとっても神取に対して”これがプロレスだ”と体を張って示した試合となった。

 後年、神取は北斗戦を「北斗戦はやってよかったと思うよ。負けについては”冗談じゃねえ!”だけど、いいものをやりたくても「ハイ、そうですか」ってすぐ出来るものじゃないし、でも、それがすぐできるようにしなければいけないんだろうけど、波長が合う選手に恵まれるかどうかだろうね。(北斗は波長が合う)うーん…波長が合うっていうか、小僧らしいからね(笑)。ああいう生意気な奴はいないじゃん(北斗もそう思ってる)、だから面白いんじゃないの」と振り返っていたが、北斗vs神取戦は橋本真也vs小川直也と同じような感じだったと思う。小川もプロレスが全くド下手で誰もが戦いたがらないなか、橋本だけはしっかり小川を受け止めてくれた。北斗と神取も似たような感じなんではないだろうか…

 試合が終わっても本当のメインイベントの山田&豊田vsC・豊田&工藤が始まるのは午後11:50、間もなく午前0時を越えようとしていた。北斗vs神取がメイン前に置かれたのは試合にならない可能性があったという配慮だったが、北斗vs神取が想像以上の激戦だった分、メインになると観客のテンションが一気に下がってしまい、モニターに終電のアナウンスが出ると、終電に乗るために席を立つ観客が目立ち始め、そのためかメインは盛り上がりに欠くものになって割りを食うことになってしまい、試合を終えた山田と豊田は試合を盛り上げることが出来ずに悔し涙を流し、メインを見届けて終電に乗れなかったファンはアリーナ付近で始発が出るまで夜を明かしたファンもいた。
 しかし全女的には興行は大成功、実はオールスター開始以前から株や不動産の投資に金をつぎ込んでしまって多額の負債を抱えており資金繰りに悩まされていた。もしオールスター戦が失敗に終われば、全女は手形が落ちずに間違いなく倒産していたという。しかし、オールスター戦の成功に味を占めたのか、全女は負債補填のために他団体を巻き込んだビックマッチを連発するも、それが次第に団体にとって命取りになっていく。

 バックステージでは試合が終わっても北斗の額から流れる血が止まらず、病院へ搬送しようとしたが、夜遅かったため開いている病院が見つからなかった。やっと見つかった病院で額を縫合するも、自宅に帰った北斗は鏡で縫合で傷だらけの顔を見た瞬間プロレスが怖くなった、北斗にとって神取との一戦は自身が恐怖を感じるほどの激闘だった。
 一夜明け会見の後で北斗は社長であり北斗の相談できる人物だった松永国松氏に引退を申し入れ、国松氏も前向きに善処するとして北斗に休養するように薦められ、北斗もしばらくの間欠場するはずだったが、しばらくして国松氏から「負傷者が続出しているから出て欲しい」と要請を受け、北斗もバカ負けしてツアーに合流したという。

 その後も女子プロレスは対抗戦で盛り返し、北斗はLLPW中心に抗争を始め、11月9日にはLLPWも駒沢オリンピック公園体育館でビックマッチを開催、メインは北斗が風間ルミと敗者髪切りマッチで対戦して、風間が敗れて丸坊主にされただけでなく、他のLLPW勢も全女勢に秒殺で敗れるなど、全女側にいいようにされてしまう。

 12月6日に全女の主催の両国国技館大会で北斗vs神取の再戦が組まれて、神取のアッパーカットに敗れた北斗は引退を宣言、北斗の引退発言で全女は初めて開催する東京ドーム大会へと突き進むことになる。

(参考資料 小島和宏著「憧れ夢超女大戦25年目の真実」「北斗晶自叙伝―血まみれの戴冠」)

 

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