アントニオ猪木vsビル・ロビンソン(後編)馬場に煮え湯を飲まされた猪木が意地で見せた名勝負


新日本プロレス蔵前、『力道山13回忌追善特別興行』武道館の両大会を後援していた東京スポーツはアントニオ猪木が『力道山13回忌追善特別興行』の参戦を断り、力道山家から破門を通告されたことを憂慮し、ロビンソン戦を控えた5日前に東スポが仲介となって百田敬子未亡人、山本正男氏と猪木を引き合わせた。猪木はその場で挨拶し『力道山13回忌追善特別興行』には出れないことを告げ、敬子未亡人や山本氏も承諾したことで一応の手打ちとなるも、猪木が挨拶してお辞儀をした写真が東スポの一面に掲載され「猪木、百田家に謝罪!」と見出しが出てしまうが、これが馬場が仕掛けた三つ目の罠だった。

 記事を見た新日本サイドは猪木が力道山家に謝ることは背後にいる馬場に頭を下げることと同じ意味してていたため激怒するが、猪木は後援してくれた東スポが仲介の労を取ってくれた手前もあり、ロビンソン戦に集中したかったのもあって事を荒立てることはしなかった。興行戦争の前哨戦と言われた政治的駆け引きは馬場が猪木に煮え湯を飲ませることで制したが、新日本は猪木vsウイリアム・ルスカやモハメド・アリとの異種格闘技戦も計画されていたこともあって、この一件を契機にvs馬場はトーンダウンし、異種格闘技へと方針を転換し始める。

 12月11日、新日本は蔵前、全日本と国際連合軍による『力道山13回忌追善特別興行』武道館大会の興行戦争が始まり、『力道山13回忌追善特別興行』では力道山を偲んで俳優の田宮二郎を始めとするタレントもゲストとして登場、力道山と対戦したことのあるドン・レオ・ジョナサンやザ・デストロイヤーを始めとするオープン選手権に参戦している外国人選手も出場するなど華やかな大会となったが、対する新日本は猪木vsロビンソン以外は大きな試合は組まれなかった。後年新間寿氏は「本当に興行で勝負に出る時はメイン一本で勝負する」と答えていたとおり、セミ以下は全てアンダーカード扱いで全て10~15分以内で決着がつけられ、全日本の豪華なメンバーに対して猪木vsロビンソン一本で勝負に出ていた。

 またメインに向けてレフェリーにはかねてからロビンソンに興味を持ち、猪木vsロビンソンは世紀の一戦になると考えていたルー・テーズがレフェリーに名乗りを挙げていたが、ロビンソンをブッキングし、テーズ同様この一戦に興味を抱いていたカール・ゴッチもレフェリーとして名乗りを挙げる。最終的にレフェリーには新日本と提携していたロスサンゼルス地区から名レフェリーとして定評があったレッドシューズ・ドゥーガンをメインレフェリーとして招き、テーズとゴッチは立会人として試合を見届けることになり、試合前にはゴッチが新日本旗揚げ時に使用された実力世界一のベルトを掲げ、勝者には進呈するとアピールした。

 1本目がスタート、ロックアップから互いに出方を伺う、ロビンソンはバックを奪い、猪木はロープへ逃れるも、ロビンソンはヘッドロックで絞り上げる。猪木がハンマーロックで捕らえるが、ロビンソンはリストロックからダブルアームスープレックスを狙うと、猪木はロープ逃れる。

 猪木はレッグシザースからスリーパーで捕らえるが、スタンディングになるとロビンソンはサイドスープレックスで投げ、今度はフィンガーロックの攻防から、猪木はハンマーロックで捕らえるが、足を払って逃れたロビンソンは側転からタックルを仕掛けるも、ロープブレークとなって一旦分かれる。

 今度は猪木がネックロックで捕らえ、ロビンソンは嫌がりボディースラムで逃れようとするが、猪木は離さず執拗に絞めあげる。ロビンソンはフルネルソンで捕らえると猪木もバックに回ってフルネルソンで捕らえ、再びロビンソンが捕らえたところで猪木がカンガルーキックを発射、だが当たりが浅くて倒れず、ロビンソンは足を絡めたままハンマーロックで捕らえ、猪木は巻き投げで投げるも、ロビンソンも巻き投げで返し、猪木がヘッドシザースで捕らえれば、ロビンソンはロープへ押し込みブレークとなる。

 今度はフィンガーロックの攻防、ロビンソンはエビ固めで丸め込みつつ何度もカバーし、ひっくり返した猪木はロビンソンの足を捕らえ腕を捕らえようとするが、ロビンソンは嫌がり足を捕らえるも、猪木はブレーク、そこで猪木が軽く突くとロビンソンはエキサイトする。

 ロックアップからロビンソンが押し込み、両者は軽く突き合い、今度は猪木が押し込むと、エルボーの応酬となるが、ロビンソンは場外へフロントスープレックスで投げ、両者は場外へ転落も、ロビンソンは左足を負傷し、猪木はリングに戻るとロビンソンにショルダータックル、だがロビンソンは組み付くとダブルアームスープレックスを狙うが、猪木は堪え、ロビンソンは再びハンマーロックから腕固めで捕らえ腕十字へと移行、猪木はロープへ逃れようとするが、ロビンソンは逃さず執拗に絞り上げる。

 やっと逃れた猪木はヘッドシザースも、ロビンソンはクルックヘッドシザースで捕獲、猪木はロビンソンの足首を捻って脱出するとリバースインディアンデスロックで捕らえ、ロビンソンはたまらずロープに逃れ、猪木はヘッドロックで捕らえるが、ロビンソンは必殺技の一つであるワンハンドバックブリーカーを決め、猪木はカウント2でキックアウトするが、腰を痛めた猪木にロビンソンは逆エビ固めで捕らえ、猪木を追い詰めにかかる。

 猪木はプッシュアップでひっくり返し、エビ固めの応酬から左足をレッグロックで捕らえ、ロビンソンはワンハンドバックブリーカーの多用で左膝を痛めていることから、ロビンソンの弱点をせめて切り崩しに出るが、嫌がるロビンソンはボディーシザースで逃れようとするも、猪木は逃さない。

  ロビンソンは今でいう外道クラッチで切り返す、再び組み合うと猪木のコブラツイスト狙いをロビンソンはグラウンドに引きずり込み、足を絡めてレッグスプレットで捕らえ、猪木はロープに逃れると、再び組み合い猪木はフルネルソンからヘッドシザースホイップを狙うが、ロビンソンは堪えるが猪木は強引に持ち込んでクルックヘッドシザース、ロビンソンは立ち上がり、また倒立で逃れようとするが、猪木は逃さず長時間絞めあげる。

  30分が経過、ひっくり返してブリッジで逃れたロビンソンはレッグロールクラッチで丸め込むが、逃れた猪木はヘッドロックも、ロープへ振ったロビンソンはエルボーを狙うと、猪木のショルダータックルと相打ちなるが、ここで勝負と見たロビンソンがドロップキックからニードロップに対し、猪木はドロップキックの連発で応戦してから、掟破りのダブルアームスープレックスを狙うが、ロビンソンが堪えて決めさせない。

  今度はロビンソンがネックロックで捕らえ絞めあげると、試合中に猪木が首を痛めたと見たロビンソンはネックブリーカーから再度絞め上げ、首筋めがけて体重をかけて押し潰しにかかり、フロントスリーパーを狙うが、猪木はリバーススープレックスで逃れ、ロビンソンはブリッジで逃れようとするが、左膝攻めが効いてブリッジが出来ず、ロープに逃れる。

  ロビンソンは胴タックルからエルボースマッシュ、そしてダブルアームスープレックスを狙うが、猪木がロープに押し込むとエルボーを放ち、コブラツイストで捕らえ、逃れたロビンソンはダブルアームスープレックスを狙うも、猪木はロープに逃れるとロビンソンはツームストーンパイルドライバーで猪木を突き刺し、猪木もボディースラムで応戦、ロビンソンはダブルアームスープレックスを狙うが、猪木はロープへ逃れる。

 両者はフィンガーロックからロビンソンが切り返し、レッグブリーカーから胴タックル、そしてフルネルソンで捕らえるが、猪木は足をすくって倒し逆エビ固めを決めたところで40分が経過、猪木はロビンソンをコーナーへ叩きつけるとショルダースルーから逆エビ固めで捕らえ、ロビンソンは体を捻らせて逃れると、すかさず逆さ押さえ込みを決め3カウントを奪い、猪木もまさかの小技で1本を奪われてしまう。

1本先取するまでに43分、残り17分と猪木はまさに絶体絶命の状況に追い詰められる中で2本目へと突入、ロビンソンはいきなり逆さ押さえ込みを仕掛け、逃れた猪木は背負い投げで逃れるも、ロビンソンはバックを捕らえてハンマーロックを狙うが、猪木はエルボーで逃れると、顔面に直撃したのか、ロビンソンはたまらず場外へ逃れる。 

 猪木はリングに戻るロビンソンにブレーンバスター、首投げからバックドロップを決めるが、ロープ際だったためロープブレークとなり、カウントは入らずもロビンソンも立ち上がることが出来ない。ロビンソンも1本目を先取するまでにスタミナをロスしていたのだ。

 これを逃さなかった猪木はロープに押し込んでナックル、エルボーを浴びせ、レッグシザースから弓矢固めで捕らえ、カナディアンバックブリーカーで担ぎ、ロビンソンは不時着するも、猪木が逆さ押さえ込みで丸め込み、ロビンソンはロープに逃れる。

 焦りが見え始めたロビンソンはボディーブローからエルボースマッシュ、そしてダブルアームスープレックスを決め、勝負あったかに見えたが、猪木の足がロープにかかっていたためブレークとなってしまい、ロビンソンはヘッドロックで捕らえ、猪木はバックドロップを狙うも、ロビンソンは腰を落として堪え執拗に絞めあげ、エルボースマッシュから再度ダブルアームスープレックスを狙うが、猪木は逃れてバックドロップを狙うも、ロビンソンも決めさせない。

 ロビンソンは首固めで丸め込んだところで50分を経過、ロビンソンがコブラツイストを仕掛けるが、猪木はロープに逃れ、残り10分となったところで、ロビンソンは投げ放しジャーマンから何度もカバーに入り、猪木は必死でキックアウトしてブリッジ、ロビンソンは上から覆いかぶさり潰しにかかるが崩れない。

 残り5分、ロビンソンは逃げ切りを狙って距離を取り、猪木が組み合ってもロープに逃れられてしまう。そこで猪木が顔面にビンタのラッシュを浴びせると、エキサイトしたロビンソンにアームホイップの連発からドロップキック、逆水平から掟破りのダブルアームスープレックス、ストンピングの連打、ボディースラムと猛ラッシュをかけ、ロビンソンもエルボーで応戦してからダブルアームスープレックスを決めるも、カウント2でキックアウトした猪木はドロップキック、ロビンソンのエルボーをかわして卍固めで捕らえ、残り1分を切ったところでロビンソンはギブアップ、あと30秒で1-1のイーブンに持ち込む。

誰もが猪木が勝ったと思われていたが、3本目はまだあり、残り時間もないため、意味がないという空気になっていたが、猪木は3本目を行うとアピールしてゴングが鳴り、グロッキーのロビンソンにドロップキックを連発、ロビンソンもエルボーで応戦してエルボー合戦となるが、時間切れ引き分けとなり、猪木は防衛となった。

 試合内容も1本目は猪木自身が相手のスタイルに敢えて飛び込み、ロビンソンがこう仕掛ければ、猪木がこう返し、猪木がこう仕掛ければ、ロビンソンがこう返す。まるであやとりのような攻防で、細かい技だけでも長時間も試合を組み立ていた。1本目はまさかの小技でロビンソンに先取され、ロビンソンのフィールドで戦ったら逃げ切られると考えた猪木が強引に自身のペースへと引きずり込み、ロビンソンも先取するまでにスタミナをかなり消費してしまっていただけでなく、痛めていた左膝を攻められたことで、あと一歩のところでタイに持ち込まれた。これがロビンソンにとって最大の誤算だったと思う。

 試合後はゴッチから手渡されるはずだった実力世界一のベルトは引き分けに終わったことでお預けとなり、再戦が行われるのではと思われていたが、新日本はモハメド・アリとの異種格闘技戦実現に向けて、資金調達を始めており、ロビンソンに高額ギャラを払える余裕はなく、これがきっかけとなってゴッチとロビンソンの仲もこじれたため、新日本への参戦は1度きりとなり、2度と再戦は実現することはなかった。

 ロビンソンはドリー・ファンク・ジュニアのブッキングで全日本プロレスにレギュラー参戦、昭和51年7月24日、猪木と同じ蔵前国技館でジャイアント馬場と対戦するも、1-1のイーブンの後で馬場がランニングネックブリーカーを決め3カウントを奪い勝利、馬場も猪木と引き分けたロビンソンに勝ったことで自身が猪木より上とアピールすることは出来たが、馬場戦の頃にはロビンソンも実力的に下り坂に差し掛かっており、また馬場がロビンソンのスタイルに付き合わず、自身のフィールドへと引きずり込んだこともあって、ロビンソンのフィールドに敢えて飛び込んでいった猪木の方が試合内容では上回っていた。ロビンソンがこれから下り坂に差し掛かっていたことを考えると、猪木vsロビンソンは1度きりの対戦にしたのは正解だったのかもしれない。

 2008年9月、新日本を離れIGFを設立していた猪木は久々にロビンソンと再会、この頃のロビンソンは宮戸優光の招きで日本に滞在しヘッドコーチに就任、鈴木秀樹を輩出するなど後進の指導にあたっていた。そして2011年8月27日、新日本&全日本&NOAHの三団体が主催する「ALL TOGETEHR」に対し、IGFが両国国技館大会を開催して興行戦争を仕掛けたが、バックステージでは猪木が『力道山13回忌追善特別興行』の写真を見て「何だこれは!武道館に空席があるじゃないか」と笑っていた。実は『力道山13回忌追善特別興行』の武道館は3階部分が空席あり、写真にはっきり写っていたのだ。猪木は75年の興行戦争は引き分けだと思っていたが、馬場から三重の罠を仕掛けられたにも係わらず、最終的には猪木新日本が勢いで勝利となっていたのだ。それが後年になってわかるとは、猪木も笑わずにいられなかったのではないだろうか・・・

 アメリカへ戻ったロビンソンは2014年に死去、2002年に「新日本プロレス史上ナンバーワンの名勝負」というアンケートが行われ、猪木vsロビンソン戦は1位となった。上井文彦さんも「今でのファンでも猪木vsロビンソン戦は絶対に見るべき試合」」と高く評価している。現在の新日本でも数々の試合が行われているが、一度は見て欲しいと思う。

 (参考資料 日本プロレス事件史Vol.8『移籍・引き抜き・興行戦争』 新日本プロレスワールド、猪木vsロビンソン戦は新日本プロレスワールドで視聴できます)



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